今日は珍しいことが起きたんだけど,上手く対応できなかったので,次に似たような出来事が起きたときのために反省します.
お昼の 13 時ごろ.研究室に向かう前に,お弁当屋さんに寄ってお昼ご飯を買いに行こうと自転車を走らせていた.
最近はもうすっかり春の陽気に包まれてしまい,シャツ1枚でちょうどいいくらいの気温で,花粉で目がオワっていることを除けば,天気も良く自転車で風を浴びながら走るのが気持ち良かった.
お弁当屋さんは大学の向こうにあるので,ちょうど最終目的地の大学を通り過ぎてちょっと行った先に,シルバーのジャケットを着たおじいちゃんが道の端の枯葉の上に座り込んでいた.
最初はホームレスの方かなくらいに思ったが,ここらへんでホームレスなんて見たことがなかった.
もう少し注意深く見てみると,座っている状態から起きあがろうと,しかしよろよろとしている.
過ぎ際にさらによく見てみると,おじいちゃんが杖と紙袋を持っている.やはりどうにか起きあがろうとしていおり,ただ座り込んでいるわけではなさそうだった.
すぐに自転車を回転させて,「大丈夫ですか?」と声を掛ける.
近くまでいくと,「大丈夫」と返事があった.
「立てますか?」
「大丈夫」といいつつも,脚に力が入らないのか,懸命に立とうとするが,力が入り切らずに後ろに倒れこんでしまう.
ここまでどうやってきたのか不思議なほどに,立ち上がることに苦戦していた.
まずは熱中症を疑い
「お水飲みますか?」と言ってみるも
「いっぱい飲んできたから」と.
「飲み物持ってますか?」
「カバンにあるよ」
その後何度か水を飲むように促すが,「トイレ行きたくなっちゃうから」とか「いっぱい飲まされてきたのよ」と飲まなかった.
おじいちゃんは黒い肩掛けのカバンを持っていた.
「そのカバン,重そうですね.持ちましょうか?」
「大丈夫」
そうはいいつつも,やはり立てない.おじいちゃんはバッグに体を持っていかれていた.
何度も自分がカバンを持つことを提案するも,全て断られた.
10 回ほど同じ問答を繰り返しただろうか.自分も痺れを切らして
「カバン預かりますね」といいながら肩にかけていたカバンを持ち上げた.
すると,おじいちゃんはスッと自分の肩にかかっていた紐を外して,自分がカバンを預かった.
あれだけ断られたから抵抗されるかと思って身構えたが,思わぬ対応に驚いた.
なんだ,おじいちゃんも本当は預かって欲しかったのかな.
バックをおじいちゃんから取り上げても立つことには苦戦していたが,なんとか立ち上がることができた.
しかし,やはり安定しない.
背中を支えることでようやく歩けるくらいだ.
しばらく歩いたところでまた倒れるように座り込んでしまった.
ここまで会話をしながら,おじいちゃんが病院から歩いてきたこと,めざしている先が 1km 以上はある遠い場所だということ,普段ここを歩いて通っているわけではないことがわかった.
確実にもう徒歩では移動が厳しいが,この場所交通量の多い道路の広い歩道で,歩道には人通りも多くなく,タクシー等の車を呼びつけづらい場所だった.
ここまで水を飲んだことが確認できていないため,お願いですから飲んでくれませんかといい,おじいちゃんのバックからお茶を取り出して飲んでもらった.
しかし,やはり全然飲んでいない.
僕は途方に暮れた.
(おじいちゃんは汗結構かいてるし,立てないのは水不足のせいかもしれない)
(受け答えはしっかりしてるから今すぐどうこうという感じではないが,このままでは熱中症になってしまうかもしれない)
(高齢者は自分の体温に気付きづらいというし,喉の渇きに自覚していないのかもしれない)
(ここで強く飲むように促すこともできるだろうが,"はたして本当にそんなことして良いのだろうか")
時折おじいちゃんの携帯に電話がかかってくるが,電話に出ようとしても切れてしまい,掛け直しても出なかった.
徒歩での移動は現実的ではないことは確実であるため,代替手段を考えた.
おじいちゃんはこれまで全ての僕の提案を「大丈夫」といって断っていたことから,おそらく大ごとになることを嫌っているのだろう.
自分はまだやれるというプライドがあるのかもしれない.
人の助けを受けることを恥だと思っている可能性も高い.
タクシーを呼んだ場合はどこから乗れば良いのだろうか.
止まってくれるだろうか.
救急車を呼ぶには早いだろうか.
しかし警察を呼ぶわけにも...
などと考えながら周囲を見渡していると,近くに古いバス停があることに気がついた.
一応バス停を確認すると,この辺で走っているバス会社ではあるが,標識がかなり古く,ぼろぼろだった.
とりあえず,先を急ごうとするおじいちゃんをそこまで移動してみようと促す.
「あそこにバス停があります.バスで移動しましょう.」
「?」
「普段バスで移動していたんですか?」
「いや使ったことないよ」
「バス使った方がいいと思うので,バス使ってみましょう」
そういいながら,(自転車があるから一緒にバスには乗れない.どうしよう)と考えながら,ゆっくりと歩くおじいちゃんをバス停の方にナビゲートしていた時
前から走ってくる女性の方が見えた.
「大丈夫ですかー!?」
僕は正直かなりホッとした.
これまでおじいちゃんを介抱しながら何度か人と通りすぎたが,声をかけてくれたのは初めてだった.
その方が近づいてきて,戸惑いの表情で「大丈夫ですか?」と声をかけながら僕とおじいちゃんを交互に見た.
僕が今までの状況を説明すると
「バスっていっても...くるのかな」
「警察に電話した方が」
「ちょっと確認しますね」
そういいながら女性の方はバス停の方に行き,バス停を確認した後,電話をかけていた.
警察に連絡していたらしく,その後戻ってくると
「警察の方に連絡しました」
「バスも全然通らないみたいです」
とスマホの画面を見せながら僕に言った.
とりあえず警察に通報した以上,警察を待つことにした.
ここまで,僕はおじいちゃんがもっと警察への通報だったり他の人の協力を拒むものだと身構えていたが,そういった素振りはなかった.
警察に連絡するといったら,間違いなく「嫌」とか「大丈夫」とか言ったはずだが,それ以上強くは言わなかった.
女性の方のテキパキとした動きを見ながら,僕は自分の責任の自覚が不十分だったことに気がついた.
もっと早く,僕が警察に連絡するべきだっただろう.
救急車でも良い.
僕なりに「中途半端に助けることはしてはいけない」と思っていたが,
まともな解決策を提示できないなら,その中で確実性の高い選択肢をなりふり構わず取らなければ行けなかった.
相手より,自分の手を差し伸べて「この人の安全を確保する」という責任を全うすることを第一に考えなくてはいけないことに気がついた.
仮にその結果,助けられる人に怒られることになろうが,手を差し伸べた責任を全うしたならば,僕に手を差し伸べられるような状況に居たことが悪いと考えられるかもしれない.
この状況でまだ「相手に迷惑にならないか」を考えてしまうのは,反省しなきゃいけない.
その後,通りすがりの青年も加わり,一緒に警察を待って,警察が到着した後はそのまま警察の方に引き取ってもらった.
その後おじいちゃんの家族の方から感謝の電話が来たが,「何もできなくてすみません」というのを忘れた.
警察って,結構なんでも動いてくれるんだなぁ.